【2023/2/6】消化管寄生虫症 講義、ワークショップ
マヒドン大学熱帯医学短期研修(Onsite Short Course for Clinical and Laboratory Highlights in Tropical Medicine 2023)が始まりました。24名の参加者、多数のタイ人講師、スタッフ、日本からの実行委員会メンバーで開催しています。マヒドン大学熱帯医学部特にDepartment of Clinical Tropical Medicineがメインで開催しています。日本側の事務局はNPO法人グローカルメディカルサポートで行っています。日本側からは森医師、石岡医師、羽田野医師が参加しました。今回はCOVID-19の影響で3年ぶりの開催でした。
学部長Assoc Prof. Weerapongによるウェルカムスピーチにて会の幕が開きました。アイスブレイクはタイのワイの仕方、タイ語での挨拶の仕方を学びました。最初に森 博威医師による熱帯医学、寄生虫総論、消化管寄生虫症の鑑別の講義が始まりました。熱帯病は高温、多湿の環境だけでなく、トイレや水などの衛生状態、貧困、昆虫媒介感染症、人畜共通感染症と深い関わりがあること。感染症の背景を考えた総合的なアプローチが重要であることを伝えました。また蠕虫、原虫の寄生虫の顕微鏡の形態について学びました。
1日目の目標は熱帯医学領域で頻回に診る機会の多いマラリア、消化管寄生虫疾患のスメアを自分で作り、同定できることとしました。午前の顕微鏡ワークショップでは、Dr. Aongart, Dr. Poomおよび寄生虫講座のスタッフの指導の元、顕微鏡スライドで消化管寄生虫症の顕鏡、診断について学びました。便のUnknown sampleが好評でした。タイ、ミャンマー国境沿いの住民の実際の便のサンプルをホルマリンで保存しているものを使用しました。生スメアを自分で作成して蠕虫、原虫を診断する過程で寄生虫疾患への理解や興味が深まったように感じています。
昼はビュッフェ形式でランチを楽しみました。ガパオやマサマンカレー等なじみの深いタイ料理を頂きました。
午後は森医師によるマラリアに関する講義からスタートしました。マラリアの生活史を理解し、各マラリア原虫について、Trophozoite, schizont, gametocyte等、各ステージの顕微鏡の特徴についてまず復習しました。顕微鏡実習、ワークショップでは, Dr. Aongart, Dr. Porntipの指導の元、Thick smear, Thin smear, 染色の実習、簡易キットの実習をワークショップ形式で学びました。また講義で学んだマラリアの診断について、豊富なサンプルを見ながら復習しました。最後にはUnknown sampleが配られ、皆でディスカッションを行いながらマラリアの同定を行いました。
夕方は1日の振り返りを日本人のAlumniで行いました。消化管寄生虫症、マラリアに関する診断、治療について多くの質問があり、ディスカッションを行い理解を深めました。
【2023/2/7】AFIへのアプローチ、デング熱、トラベルメディシン、皮膚疾患
2日目の目標は東南アジアでの発熱疾患へのアプローチ、特に日本と違う点を学ぶこととしました。Dr. Chayasinによる発熱へのアプローチでは、特に局所の症状がない発熱患者に対しては、タイではデング熱、チクングニア、ジカ熱、マラリア、Scrub typhus等リケッチア、また腸チフスを鑑別にあげる必要があること、それらの疾患の代表的な特徴と鑑別の方法についても学びました。森医師がタイと日本の発熱疾患の共通点と違いを日本語でまとめ、理解が進むようサポートしました。
次にタイで非常に診る機会の多いデング熱の講義と患者さんの診察を行いました。Dr.Weerapong, Dr.Wattana, Dr.Borimasからデング熱の基本的な診断、治療について講義を頂き、その後患者さんの診察を行いました。デング熱は解熱後に血漿漏出と出血傾向、臓器不全をきたすことがあり、警告症状に注意することが大切です。警告症状、治療のポイントを振り返りました。また血小板が低下し、食欲が低下している患者さんの診察からデング熱が重症化する際のタイムコースを学びました。デング熱の皮疹についても実際に診察を行いました。参加者から多く質問があり活発なディスカッションを行いました。
午後はDr. WasinによるTravel medicineの総論的な講義から始まりました。Pre-travel, post-travelの対応に関する基本的な考え方、特にどこの国、どの地域で何の活動を行うかを丁寧に聞き取りを行い、ワクチンやマラリアの予防内服だけではなく、トラベルの関するリスクを減らしていく丁寧なアプローチからは多く学びました。現在マヒドン大学のTravel medicineでは3年間の公式のTraining courseが始まっており多くの研修医が参加しています。講義の後は実際にTravel clinicに行き、Travel clinicでの対応や具体例について学びました。またクイズ形式でTravel medicineに関するディスカッションを楽しく行いました。
熱帯病領域の皮膚科疾患のアプローチは短期研修では初めての試みでした。Dr.Jittima, Dr.Supitchaによるタイでの皮膚疾患の基本的な内容を症候から丁寧に講義頂きました。特に熱帯病領域についてはPaederus dermatitis:ハネカクシによる皮膚炎やLarva migrans、またハンセン病の皮膚所見についても学びました。最後にクイズ形式で、自分で考えることで知識が定着しました。
振り返りでは特にデング熱の診断、治療について多くディスカッションを行いました。参加者から活発な質問を頂き、ディスカッションを盛り上がりました。
また飛び込みで排便時に白い異物が出てきた患者の受診があり、条虫の分節とTaeniaの卵が見えたため皆で供覧しました。日本とタイの条虫の違いと診断や治療方法についてもディスカッションを行いました。
【2023/2/8】病棟ラウンド、マラリア、メリオイドーシス、肝疾患
Dr.Prakaykaew, Dr.Udomsak, Dr.Viravarn, Dr.Tanayaの担当で、朝は病棟ラウンドから始まりました。2例とも60台のケースで1例目は亜急性、抗菌薬に反応しない軟部組織の炎症、鼠径部のリンパ節腫脹を呈するケースでした。フィラリアと診断されました。リンパ節腫脹に対するアプローチ、日本とタイの違いについても学びました。もう1例は呼吸苦、咳で受診した患者で結核の症例でした。呼吸苦、咳に対するアプローチ、日本とタイの違いについても学びました。また結核の耐性や治療、管理についてもディスカッションを行いました。
その後Dr.Polrat, Dr.Prakaykaew, Dr.Noppadon, Dr.Sant、また日本から石岡医師が担当し、マラリアの診断、治療に関する講義、ディスカッションを行いました。ケースを提示しマラリアの血液像による診断、また薬剤の使い方について学びました。マラリアの臨床的な特徴、診断、治療について症例ベースで学ぶことで理解が進みました。特にタイで診断されることが増えているサルマラリアP. knowlesiについても症例の紹介がありました。
昼ごはんは美味しいタイ料理を頂きました。グリーンカレーとタイのフルーツがおいしく印象的でした。
午後はDr.Wironrong, Dr.Narissara、また日本から羽田野医師が参加しメリオイドーシスの講義、ディスカッションを行いました。メリオイドーシスはタイ、オーストラリアだけではなく世界的に問題になってきています。効果的な治療薬が少なくまた治療に時間がかかるため、臨床的には苦慮することが多い疾患です。Dr. Wirongrongはタイでのメリオイドーシスの第一人者です。豊富な経験を元に迷いがちな治療方針についてエビデンスに基づき丁寧に解説を頂きました。
最後はDr.Chatporn, Dr.Kittiyodによる熱帯病の肝疾患に関する講義でした。Fasciolaとアメーバの印象的な臨床経過、画像の紹介を頂きました。特に熱帯病だけではなく一般の疾患からも幅広く鑑別をあげアプローチを行うことについても学びました。Fasciolaのケースはタイ、ミャンマー国境沿いの症例で水や汚染された植物の摂取で感染したと考えられますが、水や衛生状況の改善は苦労が伴います。
最後の振り返りも多く質問がでて、3日間ですが充実した時間を過ごしました。わからない部分はオンラインレクチャーを復習頂くようお伝えしました。
Closing ceremonyはDr. Udomsakのご挨拶があり、またDr. Watcharapongを含め多くの医師のご参加の元、修了書の授与にて幕を閉じました。今回は事前のオンラインレクチャーで学んでいたため、知識がある方が多く、質の高いディスカッションが印象的でした。様々バックグラウンドを持つ医療者が参加しており、参加者間の交流も盛り上がりました。とても楽しく、充実した3日間になりました。ご参加ありがとうございました。