【2016/12/19】消化管寄生虫症 講義、ワークショップ
マヒドン大学熱帯医学短期研修が始まりました。31名の参加者、多数のタイ人講師、スタッフ、5名のDMTHの卒業生、2名の日本人スタッフという構成です。主催は北海道社会事業協会 余市病院地域医療国際支援センター、NPO法人グローカルメディカルサポートで行っています。
Dr. USAによるウェルカムスピーチにて会の幕が開きました。アイスブレイクはタイのワイの仕方、タイ語での挨拶の仕方を学びました。最初に森医師による熱帯医学、寄生虫総論の講義(日本語)が始まりました。熱帯病は高温、多湿の環境だけでなく、トイレや水などの衛生状態、貧困、昆虫媒介感染症、人畜共通感染症と深い関わりがあること。感染症の背景を考えた総合的なアプローチが重要であることを伝えました。また各論の理解を深める寄生虫の分類についての講義がありました。マヒドン大学は熱帯医学領域ではアジアのリーダーとして教育に力を入れており、ディプロマ、修士のコースには毎年日本人が参加しています。今回、マヒドン大学熱帯医学が短期研修を主催します。
続いて原虫講座の教授 Prof. Yaowalarkによる消化管寄生虫症の講義がありました。アメーバ肝膿瘍、クリプトスポリジウムの症例のディスカッションに始まり、主要な消化管寄生虫症の診断、治療、疫学についての講義がありました。インターラクティブな講義でフロアからの質問、ディスカッションも多く、盛り上がりました。専門用語や理解が難しい部分については日本語での翻訳を入れながら、納得がいくまでディスカッションを行いました。
午後はDr. Dornによる消化管蠕虫症の講義がありました。タイで頻回にみる消化管蠕虫症についての臨床、疫学、診断を中心とした講義でした。消化管寄生虫症が食生活や文化との関係が深いこと、また様々な寄生虫の生活史、臨床像を振り返りながら診断、治療についてもディスカッションを行いました。
顕微鏡ワークショップでは、午前、午後学んだレクチャーの知識を基にマヒドン大学の多数の顕微鏡スライドで顕鏡、診断について学び、活発なディスカッションを行いました。夜はウェルカムディナー、近くの東北部タイ料理屋でリラックスしながら一日の疲れをとりました。
【2016/12/20】ハンセン病専門病院、バンコク病院
午前中はハンセン病の専門病院を訪問しました。90年近くの歴史があるこの病院は、プミポン前国王の祖母が始めた病院で、プミポン前国王自身も深くかかわっていたようです。シリラット先生は長年ハンセン病の診療に深くかかわっています。ハンセン病の実際の患者さんを3人診察し、皮膚所見、感覚障害、神経所見の取り方を学びました。菌量による症状発現の違い、skin slit test、皮膚生検、治療方法、副作用、フォローの仕方についても学び、議論を行いました。タイでもハンセン病の症例数は減ってきており、今は年間500例程度とのことでした。日本では見られなくなったハンセン病の新規患者さん、診断、治療を学べる機会は少なく、訪れるたびに勉強になります。
午後はバンコク病院を訪問しました。バンコク病院はタイでは最も大手の私立の病院で、多数の病院ネットワークを提供しています。日本人を含めた多数の外国人の診療を行っており、豊富な専門医、最新の医療機器、医療通訳等きめ細かいサービスを提供しています。今回、メディカルツーリズムについてマヒドン大学の先輩にあたる仲地先生、倉田さんを始めとするInternational marketing部の皆さまに講演、病院の案内を頂きました。バンコク病院での研修は、本来マヒドン大学の研修には入っていないのですが、病院の好意で受け入れて頂きました。ありがとうございました。
【2016/12/21】マラリア
午マラリアを学ぶ一日となりました。授業に入る準備としてMORU(Mahidol-Oxford Research Unit)でマラリアを研究している石岡先生によるプレ講義から始まりました。マラリアの診断、疫学についてProf. Yaowalarkの詳細な講義は印象的でした。マラリアの生活史を理解し、各マラリア原虫について、Trophozoite, schizont, gametocyte各ステージの特徴について詳細にディスカッションを行いました。「きちんとした治療は診断から始まる」との考えの元、短時間でしたが、マラリアの診断について多くを学ぶことができました。
顕微鏡実習、ワークショップが続きます。Thick smear, Thin smear, 染色の実習、簡易キットの実習をワークショップ形式で学びました。また講義で学んだマラリアの診断について、豊富なサンプルを見ながら復習しました。最後にはUnknown sampleが配られ、皆でディスカッションを行いながらマラリアの同定を行いました。多くの人がP. malariaeの同定ができるようになっていました。
午後は、Prof. Polatによるマラリアの臨床像、治療についての講義でした。Interactiveかつ詳細な症例検討から始まり、治療のポイントについてディスカッションを行いました。分かりにくい部分は日本語で質疑応答を行いました。疑問点をまとめ日本語で振り返りディスカッションを行いました。マラリアの臨床、研究経験が豊富な石岡先生の振り返りは素晴らしく、参加者が普段から抱えていた疑問点についても振り返りを行いました。終了後に参加者間でNPO法人等の活動報告、共有を行いました。とちノきネットワーク、GMS、ジャパンハートについての報告があり、活動を共有しました。
【2016/12/22】Public Health Center (BMA21), Travel Medicine
タイの医療、保健を学ぶために、バンコク, スクンビットにあるPublic Health Center(Primary care unit)を訪問しました。この施設は診療所と保健所の機能を併せ持っています。診療に関しては1次の医療機関の役割を持っており、8人の医師が所属しています。外来は1日約150人程度の患者さんを午前中に診療しており、午後は検診、ワクチンの業務を行っています。保健に関しては、健康教育、訪問看護、また地域や学校にて感染症のアウトブレイク時の対応を行っています
副院長にあたるDr. Pearから施設の概要、活動について、説明がありました。バンコクは特区となっており、多数の病院があるため、2次病院にあたるCommunity hospitalのシステムがないとのこと。この地域に住む国民皆保険(UC)を使用するタイ人は、最初にこの施設を受診するが、緊急時はどの病院を受診してもよいことについて説明がありました。高血圧、糖尿病、結核に対する予防や往診の取り組み、感染症の報告システム等についてもディスカッションを行いました。病気に対してどう治療を行うかは、医療、保健の理解が必要で、2日目に訪問した私立の病院のシステムと比較しながら理解が進みました。1000人を超える豊富な専門医が連携して質の高い医療に当たっていることを、航空会社と連携して周辺諸国からも多数の患者を受け入れていること、24時間予定手術を行うことができること、また日本と医療、保健のシステム、枠組みの違いについても多く学ぶことができました。
顕微鏡実習、ワークショップが続きます。Thick smear, Thin smear, 染色の実習、簡易キットの実習をワークショップ形式で学びました。また講義で学んだマラリアの診断について、豊富なサンプルを見ながら復習しました。最後にはUnknown sampleが配られ、皆でディスカッションを行いながらマラリアの同定を行いました。多くの人がP. malariaeの同定ができるようになっていました。
午後はDr. WatcharapongによるTravel Medicineの講義、ワークショップを受講しました。海外の目的地を聞くだけでなく、具体的な場所、活動内容、期間等リスクの評価が大切なこと、現地の特徴を考えながら適切なアドバイス、プラニングを行う必要性について、具体的なエピソード、データを見ながら講義が進みました。ブースでは4グループに分かれワークショップ形式で、マヒドン大学のTravel clinicの概要、旅行前、後の準備、診療の実際について学ぶ場となりました。
【2016/12/23】デング熱、病棟ラウンド、タイの医療保険制度と地域医療
最終日はマヒドン大学熱帯医学部付属病院の病棟ラウンドから始まりました。和足医師の印象的な導入のレクチャーの後、Department of Clinical Tropical Medicineに所属する経験豊富なタイ人、外国人臨床医の元、3つのグループに分かれ病棟ラウンドを行いました。デング熱、マラリアのケースについて、ベッドサイドで診断、鑑別、治療についてディスカッションを行いました。タイではすぐに高額な検査ができません。その代わり現病歴、社会歴、既往歴(特に居住地、仕事内容、熱型等)、理学所見、CBC、顕微鏡検査、レントゲン検査の所見を大切にします。発熱疾患に関しては、マラリア、つつがむし病、腸チフス、デング熱、チクングニア、その他の熱帯病ではない発熱疾患を考えながら、鑑別をあげて診断に結び付けていくプロセスは勉強になります。参加者からも多くの質問、意見が飛び交い、白熱したラウンドとなりました。その後、デング熱の病態生理、検査の講義に加え、ケースディスカッションを教室で行いました。
午後は森医師によるタイの保険制度についてのレクチャーの後にワークショップを開催しました。タイ、ミャンマー国境沿いの1次、2次医療、住民の生活、医療保険制度について記載したシナリオを基に、グループディスカッションを行いました。タイの地域、田舎にはまだ多くの寄生虫疾患を含めた熱帯病が流行しています。チームのメンバーが地域の病院の協力を得て介入する際にどのような方法が可能か、問題点の抽出、グループ化、それぞれの問題の因果関係の分析を行った後、介入方法についてのディスカッションを行いました。
トイレや水、靴等の衛生、貧困問題への介入、地元と人と共に行う教育活動、医療制度、研修医教育への提案、様々な視点からタイの地域医療を改善する提案が飛び出しました。医療従事者がただ途上国に行ったとしても、できることは限られており、教育や保健を含めた活動と連携して医療の向上をはかることの重要性を、ワークショップを通じて感じて頂けたように感じます。特に印象的だったのは、「全ての問題は病気と繋がる」という参加者の発言でした。途上国の医療現場の改善のために病気を知ることは重要であり、今回の熱帯医学短期研修を開催する意義に繋がったと実感しました。