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【2017/12/18】消化管寄生虫症 講義、ワークショップ

マヒドン大学熱帯医学短期研修(Short Course for Clinical and Laboratory Highlights in Tropical Medicine 2017)が始まりました。40名の参加者、多数のタイ人講師、スタッフ、日本からは4名の実行委員会メンバーで開催しています。マヒドン大学熱帯医学部Department of Clinical Tropical Medicine, Department of Protozoologyの共催にて開催、日本側の事務局はNPO法人グローカルメディカルサポートで行っています。
Dr. Weerapongによるウェルカムスピーチにて会の幕が開きました。アイスブレイクはタイのワイの仕方、タイ語での挨拶の仕方を学びました。最初に森医師による熱帯医学、寄生虫総論の講義(日本語)が始まりました。熱帯病は高温、多湿の環境だけでなく、トイレや水などの衛生状態、貧困、昆虫媒介感染症、人畜共通感染症と深い関わりがあること。感染症の背景を考えた総合的なアプローチが重要であることを伝えました。また各論の理解を深める寄生虫、宿主の分類、感染経路についての講義がありました。

続いて原虫講座の教授 Prof. Yaowalarkによる消化管寄生虫症の講義がありました。アメーバ肝膿瘍症例のディスカッションを軸に、主要な消化管寄生虫症の診断、治療、疫学についての講義がありました。インターラクティブな講義でフロアからの質問、ディスカッションも多く、盛り上がりました。専門用語や理解が難しい部分については日本語での翻訳を入れながら、納得がいくまでディスカッションを行いました。
午後はDr. Dornによる主要な蠕虫症の講義がありました。タイで頻回にみる蠕虫症についての臨床、疫学、診断を中心とした講義でした。消化管寄生虫症が食生活や文化との関係が深いこと、また臨床面でのアプローチを中心に寄生虫の生活史、臨床像を振り返りながら診断、治療についてもディスカッションを行いました。

顕微鏡ワークショップでは、午前、午後学んだレクチャーの知識を基にマヒドン大学の多数の顕微鏡スライドで顕鏡、診断について学びました。今年から始まった便のUnknown sampleが大好評でした。タイ、ミャンマー国境沿いの住民の実際の便のサンプルをホルマリンで保存しているものを使用しました。生スメアを自分で作成して蠕虫、原虫を診断する過程で寄生虫疾患への理解や興味が深まったように感じています。夜はウェルカムディナー、BTS Victory monument駅近くの東北部タイ料理屋でリラックスしながら一日の疲れをとりました。

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【2017/12/19】マラリア

マラリアを学ぶ一日となりました。授業に入る準備としてMORU(Mahidol-Oxford Research Unit)でマラリアを研究している石岡先生によるプレ講義から始まりました。マラリア原虫の英語表記、診断、治療についてポイントを絞ったレクチャーがありました。

午前中のマラリアの診断、疫学についてProf. Yaowalarkの詳細な講義は印象的でした。マラリアの生活史を理解し、各マラリア原虫について、Trophozoite, schizont, gametocyte各ステージの特徴について詳細にディスカッションを行いました。「きちんとした治療は診断から始まる」との考えの元、マラリアの診断について多くを学ぶことができました。最近注目を浴びているP. knowlesiの顕微鏡、診断の特徴について学びました。顕微鏡実習、ワークショップが続きます。Thick smear, Thin smear, 染色の実習、簡易キットの実習をワークショップ形式で学びました。また講義で学んだマラリアの診断について、豊富なサンプルを見ながら復習しました。最後にはUnknown sampleが配られ、皆でディスカッションを行いながらマラリアの同定を行いました。

午後は、Dr. Santによるマラリアの臨床像、治療についての講義でした。治療、東南アジアのマラリアの疫学のポイントについて詳細なレクチャーがありました。Umcomplicated, severe malariaの治療、また薬剤耐性、治療の違いについて学びました。東南アジアのマラリアは耐性度が増しているものの罹患率は低下しています。マラリアの対策として、早期発見、早期治療を行うこと。抗マラリア薬の種類、使い方についても学びました。講義後にマラリアについて日本語で振り返りを行いました。臨床、研究経験が豊富な石岡先生の振り返りは素晴らしく、参加者が普段から抱えていた疑問点についても、十分なディスカッションを行いました。

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【2017/12/20】ハンセン病専門病院

午前中はハンセン病の専門病院Rat Pracha Samasai Instituteを訪問しました。歴史があるこの病院は、プミポン前国王が支援、訪問しています。シリラット先生は皮膚科医で長年ハンセン病の診療に携わっています。ハンセン病の新規発生はタイでも減少していますが、この施設では年間152例の新規患者さんを診察しています。ハンセン病患者の減少に伴い、外来は一般の皮膚科の患者さんも診療しています。最近はミャンマーの労働者等外国人の受診が増えており、外国人も無料で治療してます。外来、検査、病棟をラウンドし、患者さんの診断までの流れ、診断、検査のポイントを学びました。外来、病棟でハンセン病の実際の患者さんを3人診察しました。タイではハンセン病は皮膚科医が診察しており、皮膚科の研修にハンセン病施設も含まれます。ハンセン病は長期に放置すると、神経障害、筋肉の萎縮から変形、拘縮をきたすこと、また創部感染の悪化から手足の切断をしている方もいます。きちんと診断して治療すること、早期に評価、リハビリを行い、拘縮予防、リハビリに努める重要性について学びました。レクチャーでは菌量による皮疹の違い、skin slit test、皮膚生検、治療方法、副作用、らい反応、フォローの仕方についても学び、議論を行いました。フロアからは多くの質問がでて活発にディスカッションを行いました。
午後はYaowalark教授と森医師によるMedical and Insurance system in Thailandのレクチャー、ディスカッションを行いました。タイの現状、問題点として高齢化、急激な都市化、ITの発達等を挙げた後、タイの疾病構造について解説がありました。感染症の問題が減少する一方でNCDが増えていること、依然として交通外傷が多いこと、今後高齢化社会に向けて準備が必要である旨解説がありました。ASEANが連携することで起こる問題点についても学びました。タイ全体で医師数、看護師数が十分でないこと、地域医療を研修医が支えていること、専門医の現状についても解説がありました。タイの保険システムの解説(公務員保険、UC,SSS)の後、医療財源、他の国との比較の中でのタイの皆保険制度のメリット、デメリット、今後タイが進む方向性についてのディスカッションを行いました。同じ皆保険制度であっても日本とタイでの相違点を感じ、フロアから様々な質問がでて、活発な意見交換を行いました。

各団体、機関の活動紹介では、参加者からバンコク病院、フィリピンの活動、ビールを片手に感染症の紹介を頂きました。またNPO法人GMSについての紹介を行いました。

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【2017/12/21】病棟ラウンド, Travel Medicine

朝のプレレクチャーは和足医師によるタイの発熱患者の鑑別の仕方のレクチャーでした。修士の研究データを基にマラリア、デング熱、リケッチア、レプトスピラ症の紹介、診断、治療のピットフォールを30分で完結にまとめた講義は印象的でした。
続いて症例検討を行いました。タイとアフリカに在住するタイ人が帰国後発熱をした症例でした。双方向性のディスカッションを行いました。現病歴を簡単に紹介した後、フロアからの質問を促します。詳細な現病歴、生活歴、家族歴を十分聞きこんだ後で理学所見、検査所見と続き鑑別を絞っていきます。血液検査に関しては白血球、血小板の数、肝機能、腎機能の値が鑑別に繋がります。症例では血液像で多数のRing formが見え、P. falciparumとの診断となりました。

午後はDr. WasinによるTravel Medicineの講義の後Travel clinicの見学を行いました。海外の目的地を聞くだけでなく、具体的な場所、活動内容、期間等リスクの評価が大切なこと、現地の特徴を考えながら適切なアドバイス、プラニングを行う必要性について理解を深めました。特にTravel medicineの領域で特に重要な感染症については詳細な解説がありました。その後2グループに分かれ、Case discussionとTravel clinicの案内を頂きました。Dr. TumによるCase discussionでは南アフリカにカンファレンスで参加する旅行者に対してワクチンやマラリアの予防内服をどう計画するか、検索方法を含めたレクチャーがありました。授業終了後、Prof. Yaowalarkの好意で熱帯医学部のMuseumを訪れました。ジャングルを見立てた会場の中でハリーポッター、USJを彷彿させる仕掛けに参加者は大喜びでした。

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【2017/12/22】デング熱、病棟ラウンド、メリオイドーシス

最終日は羽田野医師のデング熱とメイオイドーシスの導入レクチャーから始まりました。3人のタイ医師によるデング熱の講義の後、病棟ラウンドと続きました。Dr. Borimas, Dr. Kittiyod, Dr. Weerapongによるデング熱総論、肝障害、体液管理のレクチャーを受けました。デング熱に特徴的な皮疹の特徴、重症化の指標、Warning sign等注意すべき点について学びました。Severe dengue infectionでは体液管理が重要なポイントになります。血圧低下時にPlasma leakageに十分注意しながら輸液を行う方法、輸血のタイミングについてもディスカッションを行いました。どのタイミングで入院を考慮するか、重症化をどう予測するか、臨床的に重要なポイントについてフロアから質問がありました。症例は3例、昼ぎりぎりまでラウンドを行いました。デング熱は解熱してから48時間の間、Plasma leakageに注意する必要があります。解熱した後に呼吸苦、心窩部痛、嘔吐が悪化、血痰、肝腫大、血小板減少を呈する若い女性のケースからWarning sign、輸血や集中治療開始のタイミングを学びました。

午後はDr. Wirongrongと羽田野医師によるメリオイドーシスのレクチャーでした。タイ東北部でEndemicなメリオイドーシスの症例経験がある医師は少なく、貴重なレクチャーでした。急性期から慢性期まで非常に多彩な像をとるメリオイドーシスの特徴をまとめた素晴らしいレクチャーでした。結核と類似する骨病変、重症化の指標となる肺炎、少しでも尿からメリオイドーシスが検出されたら治療すること。検査方法、Eテスト、治療薬の選択、期間、フロアと双方向性にディスカッションしながら、理解を深めました。Dr. Wirongrongと羽田野医師の師弟コンビでの呼吸も良く素晴らしいレクチャーでした。

Closing ceremonyはPratap学部長のAlumniへの感謝のお言葉、修了書の授与にて幕を閉じました。「短期研修の修了者はマヒドンの卒業生です。またいつでも戻ってきてください」というDeanの言葉が印象的でした。参加者の方と来年に向けた振り返り、コースの課題をディスカッションし、5日間の研修が終了しました。海外勤務されている方、様々バックグラウンドを持つ医療者が参加しており、参加者間の交流も盛り上がりました。とても楽しく、充実した5日間になりました。ご参加ありがとうございました。

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